だるまさんこちら向かんせ世の中は月雪花に酒と三味線…とまあ、こういきたいものです。

『TENET』考 3 ~ネタバレ注意

そもそも、なんで主人公らとセイターらが争ってるかといえば、未来の科学者が発明したという「アルゴリズム」を起動させないためだ。

アルゴリズムが起動すると世界がまるごと “反転” し、主人公らのいる世界は一瞬のうちに消える。

逆行中のコンテナの中、主人公はニールに「アルゴリズムとはなんだ?」と聞くが、ニールは「物理的形態を持つ “ある手順” 」とし、「複製も通信も不可能だ」と言う。

一般的には、アルゴリズムとはコンピュータ用語であり、計算や演算の手順・手法のことだ。

簡単にいえば、何ごとかを為すときのやり方のことである。

『 TENET 』では、世界を反転させることができる何かしらの手法のことであり、それが物理的な形態をとっているということだ。

映画では 9 つに分解されて隠されているとされ、最終的に「プルトニウム 241 」と呼ばれる最後の一つが合体し、なんだかゴツゴツした金属物をつなぎ合わせたバズーカ砲のようなものとして描写されている。

アルゴリズムに “物理的形態がある” ということが興味深い。

アルゴリズムは、先のようにある手順や手法のことなのでいわば抽象的なものであり、せいぜい何かしらの計算式や、取り扱い説明書・マニュアルのようなものだろう、普通は。

それが物理的な形態を持つ、とは?

つまり “カタチ” を持つということだが、そうなると以下、ヌーソロジーの半田広宣氏と冥王星の OCOT(オコツト)とのやりとりを思い出さずにはいられないわけだ。コ=半田氏、オ=オコツトである

 


新しい思考様式……僕ら人間の思考が意識進化によって何か別のものに変わっていくというのですか。


はい、もちろんです。定質(※簡単にいえば意識進化の方向のこと/西塚)によって思考が変えられ、その思考はあなたがたの現在の知覚に大きな変容を起こしていくことになるでしょう。

そして、この知覚変化はすべての現象が持っている意味の変容を起こしていくことになるでしょう。

そして、それらの意味の変容はあなたがたが持った感情や想念をも凌駕し、人間の意識自体を全く別なものへと変えていくのです。

それが意識進化というものです。


思考がどのように知覚に変化を及ぼすというのですか。


簡単に言えば、意識のカタチが見え出すということでしょうか。


意識のカタチ?………僕らの意識にカタチがあるというのですか。


はい、意識にカタチがあるというよりも、むしろ、カタチが意識を作り出しているという言い方のほうが正しいのではないかと思います。

人間が持った意識とはカタチの反響です。

 
半田広宣氏『シリウス革命』より

 

この後、意識は “高次元的な構造体” であるという話になっていくが、同書の別項で半田氏は以下のように考察している。

 

極めて複雑で、無限の多様性を持ったかのようにも見えるこの世界を、いかにして秩序化し、統合していくのか……。

そのためには、すべての思考の基盤となっている「数」と「形」に対する今の人間の考え方を改める必要があるとオコツトはいう。

実際、彼らの思考様式においては、数、カタチ、そして、存在を認識するための概念などの間に、いかなる相違も見られない。

つまり、彼らの宇宙観の中では、数やカタチは、そのままダイレクトに宇宙が存在するための本源的な力と見なされており、それそのものがリアリティーとなっているのだ。

半田広宣氏『シリウス革命』より

 

いや、“アルゴリズムの物理的形態” というイメージから、オコツトの話を思い出したわけだが、実は『 TENET 』を観たとき、同時に『メッセージ』という映画も思い起こしていた。

『メッセージ』は、ドゥニ・ヴィルヌーヴという舌を噛みそうな名前の監督の 2016 年公開の映画だが、あ、これもネタバレなので先に言っとくが、映画には主人公の女性の娘が出てくるが、娘の名が “ HANNAH ”(ハンナ)といい、前から読んでも後ろから読んでもハンナだと主人公が語る場面がある。

で、その娘の助言によって、いきなり地球のあちこちに降り立った「ヘプタポッド」( 7 本足という意味)という地球外知的生命体のメッセージを主人公が解読していくという話だが、彼らが伝えてくるメッセージの文字は墨を流し込むように円を描くもので、それこそ日本の書道家の達人が書くような線だった。

言語学者である主人公は、将来の夫となる物理学者と文字を解読していくのだが、まだ独身である主人公は解読のヒントを将来の娘からもらうのである。

そして、その娘は病気で死ぬこともわかっているし、夫とも離婚することもわかっている。

いわば、いまだ来ぬ、文字通り未来の話なのだが、主人公はまるで過去の記憶のように思い起こすのである。

それは、ヘプタポッドのメッセージを解読するうちに主人公は彼らの言語体系をだんだんと理解していくことになり、彼らと同じ思考方法をも会得・体得していったために、過去も未来も同時に “わかる” ような力を得たようなのだ。

つまり、ヘプタポッドの思考方法、いわば地球外知的生命体の思考の手法・手順(アルゴリズム)をある種インストールしたようなことになったわけだ。

そしてそれは、彼らの “文字” という “形態” を通して、その文字を解析・解釈していくうちに彼女の内に何かしらの “手続き” が施され、彼らの思考方法というか能力のインストールを可能にしたというか、何かを起動させたのだろうと思う。

また主人公は、娘が死ぬことがわかっていても物理学者と結婚し、娘を生むことにする。

なぜなら、すでに娘は主人公の中に思い出として実際に存在しているからだ。

ましてや、その娘のヒントのおかげでヘプタポッドのメッセージを解読することができ、結果的に世界は救われることになるのである。

この点に関しては深いテーマとしても設定でき得るが、あまり野暮はよして、『 TENET 』でいえば、最後のニールの行動の意味にも通じることだと私は思うとだけ言っておく。

まだ、続く

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