『 TENET 』では、CIA の工作員らしき主人公が仲間のスパイを救出するところから物語がはじまることは先に述べたが、ロシア人からひどい拷問を受けながら CIA 支給の自殺ピルを飲んで自害 → ブラックアウト → タイトルバックとなるが、さらに場面が変わって主人公は海上の船室のベッドに横たわっており、TENET の組織の関係者らしきおじさんに「ようこそ、来世へ」と言われる。

字幕によっては「死後の世界にようこそ」みたいなものもあるが、原文は「 the afterlife 」なので、ちょっとちゃかして「ようこそ、あの世へ」みたいなことか。

でも、雰囲気としては、テロで死にかかり、拷問で実際に自殺まで試みた主人公にしてみれば、まさに死後の世界みたいなもので、「オレ、死んだ?」ってな気持ちだろうが、けっこう重要なシチュエーションともいえ、ひょっとしたらこの物語すべてが夢のような世界を表現しているのかもしれないと思わせるものがある。まあ、たいがい映画とはそういうものだが。

で、TENET の組織の関係者らしきおじさんには、まるで何かのオーディションだったかのように「テスト」だと軽く言われるのだが、なんのテストだったのか。

少なくとも、我が身を犠牲にしてまでも仲間を守り、任務の内容を守る男だということはわかったわけだ。

個人的には、つい『ウルトラセブン』の第 17 話に出てくる薩摩次郎を思い出してしまうが、次郎はロッククライミング中に仲間と宙吊りになり、仲間を助けるために自分のザイルを切って落ちたところを飛んできたウルトラセブンにジョワッと救出され、その勇気と人柄を見込んだウルトラセブンが次郎の魂と姿を借りて地球人になったという御仁だ。

実際、主人公はのっけから潜入していた仲間のスパイを救い、劇場の観客を爆発から救い、その後はキャットを救い、おまけにセイターの命も一時的だが救うことになり、最後はニールらとともに人類を救うことになるわけだから、ウルトラセブン顔負けの活躍をするともいえる。

ともかく、先の組織の関係者のおじさんは、主人公に新たな任務を与えるときに、両手の指を組んだジェスチャーと「 TENET 」という言葉しか伝えない。

ちなみに「 TENET 」という英語は、個人的・政治的・学問的・宗教的な信条・主義・教義などのことだ。

おじさんは、「冷たい戦争」が起きているとも言うのだが、それは「氷のように冷たい」と付け加える。

わざわざ「氷のように冷たい」と言うくらいだから、かつての米ソの “冷戦” とはわけが違うことくらい想像はつく。

そして、人類すべての生き残りがかかっているというわけだが、それにしてはこのおじさんはどこか飄々としていて軽く、他人事のような顔をしているのはなぜだろう。

おまけに、その “氷のように冷たい戦争” については、「情報は限られる/ knowledge divided 」とし、「真実を知ることさえ破滅につながる/ To even know its true nature is to lose 」と言うのだ。

なんだかわからない。

とにかく、のっぴきならないことが差し迫っており、それに関する情報は限られているということだ。

その後、主人公は組織がお膳立てした流れに導かれてある研究所に忍び込むが、女性科学者に不審人物扱いされると例の秘密の合図というか、両手の指を組みながら「 TENET 」の言葉を発すると、彼女は無言で主人公を研究室の中に招き入れるのはいいのだが、いきなり「私たちは正体も目的も明かせない」とのたまい、主人公が思わす「俺たちは何をすればいいんだ?」と聞くと、「 “何” ではなく “どう” よ。“何” は私には関係ない」とツレない。

多少、気圧された主人公は、「でもまあ、何をやるにせよ、敵くらいは知っておきたいわな… 」みたいなことを言うと、さすがのツンデレ女性科学者もちょっと主人公を見つめながら、お茶をすすり、「私にわかるのは、第三次世界大戦を防ごうとしてるってこと」と言う。

すかさず主人公が「核による破滅か?」と問いただすと、「いいえ。もっと悲惨よ」と平然と返すのである。

それから、未来から送られてきたという壁を銃で撃てと言うから、引き金を引くと壁に打ち込まれた弾丸が後ろ向きに飛んできて銃の弾倉に納まるという “逆行” が起き、女性科学者は弾丸は時間を前にも進むが逆にも進むと言い、エントロピーが減少すると私たちの目には逆再生に見えると説明する。

そして、それは「核融合の逆放射」によると字幕には出るが、違和感を持ったので調べると、この部分は英語では「 We think it’s a type of inverse radiation , triggered by nuclear fission 」と言っており、つまり「逆放射の一種であり、“核分裂” によって起こされる」ということであり、“核融合” ではない。

太陽の内部で起こっているとされる “核融合” は、英語では “nuclear fusion” だが、女性科学者は確かに “nuclear fission” と言っているから、ここは “核分裂” と訳さないとならない。

ちなみにノーランが書いたスクリプトにも “nuclear fission” とある。

“核分裂” と “核融合” では正反対だからものすごい誤訳だが、ここは意外と重要というか、意味を考えればわかるが、未来においては何かしら “核分裂の逆放射” に関連して “時間の逆行・反転” が起きる、あるいは起こせるということである。

で、女性科学者は放射能の防護手袋をはめた手で “逆行弾” をテーブルの上に置き、それがひょいと手の平に飛んでくる現象を見せ、主人公にもやれと言う。

主人公も防護手袋をはめ、逆行弾の上に手をかざすが何も起きない。

女性科学者が「まず落とす」と言うと、主人公が何かを悟ったようにもう一度行ない、弾丸は手に向かって飛んでくる。

女性科学者はその様子をビデオに撮る。

「なんで触れてもないのに弾が動くんだ」といぶかしむ主人公に、女性科学者は撮影した映像を巻き戻したり、進ませたりして見せながら、「あなたの視点から見れば弾丸は “取った” ことになるし、弾丸から見れば “落とした” ことになる」と言う。

「しかし、結果の前には原因があるべきだ」と主人公は当然のことを言うが、女性科学者は「いいえ、それは私たちの時間軸でのこと」とまたクール。

「自由意志はどうなる?」と言うと、科学者は「あなたが手をかざさなければ弾丸は動かなかった。どちらの向きでビデオを回したにせよ、それはあなたの手の中で起きたことよ」と煙に巻くようなことを言う。

ここでは時間の順行と逆行の観点について基本的な解説がなされている。

仮に、手毬をついている少女の写真があるとして、地面と少女の手のちょうど中間地点に毬が浮いている状態だったとする。

その一枚の写真を見ただけでは、果たして毬が地面に向かっているのか、少女の手に向かっているのかわからない。

実際、物語では、時間について後に “挟撃作戦” だとか、未来と過去の “中間地点” といった概念として登場してくるのである。

それはともかく、女性科学者は逆行弾をテーブルの上に置いて、指のほうへ磁石のように引きつけたり、ピョンピョン弾ませたりして勝手に遊んでいると、逆行弾がいきなり彼女の指先から主人公の手の中に跳ねながら飛んでいく。

主人公は何かを会得したらしく、「直観か。わかったぞ」とつぶやく。

そうするとツンデレ女性科学者の態度がちょっと和らぎ、気を許したのか自分たちの研究についても触れ、主人公を別室に案内する。

彼女は、「未来人たちが逆行させられるのは弾丸だけではなく、もっと多くの物があるでしょう」と言い、「核兵器ですら未来を変えるのだから、時間を逆行する武器は過去を変える。私たちはそうしたものを調べているの」と明かすのである。

そして、天井まで届きそうな棚から引き出しを一つ引き出して見せると、そこには何やら複雑な機械の部品のようなものがいくつも並んでおり、彼女はそれらを「来たるべき戦争の残骸」と言う。

その部屋にはそうした棚がどこまでも並んでいるから、未来で起こった戦争の “残骸” とやらは、おびただしい量として保管されていることがわかる。

つまり、ある時間軸の未来では、第三次世界大戦が起こるということだ。

そしてツンデレ女性科学者たちは、最初に本人も言ったようにそれを防ごうとしているのである。

彼女は妊娠している様子だが、彼女が無駄口を嫌い、どこか決然としたクールさを醸し出しているのも、“来たるべき戦争” と、やがて生まれてくる子どものことに関係しているのかもしれない。

彼女はおそらく自分の信条( TENET )に則って、自分の役割を自覚し、やるべきことを行なっているのであろう。

と、ここまでが物語の前半部分に当たり、先の組織のおっさんもツンデレ女性科学者もこの後には登場しない。

しかし、冒頭のオペラ劇場のテロの場面といい、この研究所までの場面といい、その後の物語全体を象徴するものとなっていることは間違いない。

 

 

物語の後半からはいろいろな役割を担った連中が登場し、観客は一気にクライマックスまで引き込まれることになるが、そもそも物語の主人公であるワシントン Jr. と言ったら失礼か… J.D. ワシントンの役名は「プロタゴニスト/ PROTAGONIST 」であり、実際に「主人公・主役」という意味だが、他の登場人物にしてもそれぞれが自分の “役割” に異様にこだわっているように見える。

組織のおっさんから任務を受けた主人公は先のツンデレ女性科学者のところへ行き、それからインド人の武器商人のプリヤに会い、ようやく自分の敵対者(アンタゴニスト/ ANTAGONIST )がセイターであることを知ることになるが、プリヤは、セイターは「現在と未来の “仲介役” として機能している」と言い、セイターに会うにはまっさらな「新人の “主役” 」、つまりすでにテロ騒動で死んだことになっている主人公が必要だと言うわけだ。

主人公は主人公でプリヤに「あなたが黒幕か?」と聞くが、プリヤははっきりとは返答しないものの、以後、黒幕っぽく振るまっていくことになる。

“黒幕” というといかにも劇中の役柄名のようだが、主人公は「 This is your operation? 」と聞いたのであり、「この作戦はあんたが取り仕切ってんのか?」くらいの意味だろうが、まあだから黒幕っちゃ黒幕だが、それでも最後はプリヤの旗色がわるくなるわけだが、そういう意味では登場人物の中で最後まで自分の役割を明確に自覚していたのは、あるいはまっとうしようとしていたのは、主人公とセイターとニールとアイブス、あと先のツンデレ女性科学者くらいのものだろう。

例の冒頭の組織のおっさんもどこか頼りないというか、主人公に「われわれは、燃えているビルに飛び込んで人を救いたくても、火の熱さを知れば怖気づく。でも、君ならやるだろう」と言ったように、自分自身も飛び込めないクチであることを知っているかのような達観というか諦念が感じられ、物語の役柄としてはありなのだろうが、そういう意味ではたしかに役割をまっとうしているといえるが、どうも物語を駆動する力に乏しい。

同じくプリヤにしても、さっきも言ったように自分でも黒幕のつもりで指令を出しているようだし、時間を逆行できる “回転ドア” や武器を備えた武装グループも抱えているし、敵対者としての “未来に属するものたち” もいるし、セイターもそいつらの協力者なのである。

しかし、やはりどこか自信に欠けているというか、迷いがあるというか、正々堂々とした信条( TENET )が伝わってこないのはなぜだろう。

プリヤの紹介で主人公が会うことになる元英国諜報部員のクロスビー卿は、主人公のブルックス・ブラザーズのスーツを金持ちに変装する衣装としてはそぐわないとしてクレジットカード(ブラックカード?)を渡し、ついでに「仕立屋を紹介しようか?」と聞くが、主人公が「紳士気取りは英国人が独占しているわけじゃないだろ」とやんわりと断ると、クロスビー郷は多少高圧的に「独占じゃない。支配しているのだ」と言うのだが、そのあたりでお里が知れるというか、いまだ世界のパワーバランスの行方は我々が握っているのだという幻想の中にいる時代遅れの英国貴族ふうに見える。

それじゃなくてもクロスビー郷は、主人公にカードを渡すときに「 Save the world , then we’ll balance the books 」と言うのだが、ほかの字幕がどうなってるのかはわからないが、スカパーでは「世界を救いたまえ」とだけあり、あとの「 then we’ll balance the books 」の訳が抜けている。

「 balance the book 」とは “帳簿や計算の帳尻を合わせる” という意味があるが、「 the book 」には芝居や劇の “台本” という意味もあるし、それこそ “聖書” の意味もある。

となると、クロスビー郷を含む英国の連中こそが、実は主人公らをうまく使ってゲーム感覚で世界を動かしているのだという “ほのめかし” にも感じるが、おそらくそうではなく、クロスビー郷も何もかも、すべての登場人物は文字通り “物語の主役” のための配役でしかなかったことが最後にわかる。

キャットはよくわからない。

いや、クロスビー郷にいわせれば、キャットことキャサリン・バートンはフレデリック・バートン卿の姪というから、血筋は英国貴族なのだろうが、悪魔のようなセイターに身も心も支配されており、自由を切望しながらも同時に絶望しているあたりは、どことなくダイアナ妃をも彷彿とさせるが、最終的にはキャットは主人公らによって保護されることになる。

ちなみにセイターは、これまたクロスビー卿によれば、北西シベリアの見捨てられた土地、スタルスク 12 で生まれ育った。

英国情報部でもこの地のことは把握はしていたらしいが、今では完全に無視されている町だ。

セイターが若いころ、そこで核爆発事故があった。

セイターは当局からプルトニウムを回収する作業を請け負ったが、後に明かすように、同時に悪魔とも契約をしたのである。

未来人に時間をくれてやることと引き換えに大金を得たのだ。

“世界の未来” を売ったのである。

で、キャットと結婚することによって英国エスタブリッシュメントの仲間入りを果たした。

先ほど、クロスビー卿によるとセイターは北西シベリアで生まれ育ったと言ったが、字幕では「北シベリア」とある。

実際は、「 north‐west Siberia 」だから、正確には “北” ではなく “北西” である。

別に『 TENET 』に限らないが、映画の字幕は字数制限がある中、できるだけ本来の意味を伝えなくちゃいけないから大変だ。

だから、いちいち目くじらを立てたり、重箱の隅をつつくようなマネをする気もないのだが、意味が変わってくるからしょうがない。

先の「核融合」と「核分裂」は初歩的ミスとしても、「北」と「北西」ではちょっと見方が違ってくる。

なぜなら、北西シベリアとなると、かつてのハザール王国のすぐ隣に位置することになるからだ。

そう、陰謀論系でよく登場するあの “ハザール・ユダヤ” のハザールである。

となれば、何やら微妙な出身の男が金の力で英国貴族のラインに入り込んでいくというシナリオも、どこかで聞いたような話になる。

そして、“ロシア” からやってきたというセイターや、一見、正義の味方っぽい “インド” のプリヤという図式は、私に国常立大神が伝える『火水伝文』の次の箇所を思い出させる。適宜、ふりがなを入れる。

 

《逆十字》の陰陽はそれぞれにオロシア、インドの地に相呼応して思凝(しこ)りたが始めにござるぞ。
知恵なる『蛇の力』はユダの地に思擬りて、
《逆十字》に副(そ)いハタラク《我善(われよ)し》の神は中国北方に天降(あも)り来たりて《力善し》の神は北米に天降りたのぞ。
それぞれ仕組み構えありての事でござる。

 

なんのこっちゃという感じかもしれないが、簡単にいえば、人類ひいては世界を破滅に導く “欲望” (本来は快欲とか、身欲という)の神(意識、エネルギーでもいい)の発祥として、その陰の部分はロシアに降り、陽の部分はインドに降りたということだ。

そして、その欲望とともにさらに自分本位に世界を支配下におこうとする神は中国の北方に降り、同じく暴力的に蹂躙する神は北アメリカに降りたと言っているのだ。

前後の脈絡がないとよくわからないかもしれないが、これは世界の創世にかかわる仕組みを解説する書の一部分であるが、とりあえず “ロシア” と “インド” が出てきたので引用したまでである。

なんだっけ?

そうそう、ともかくキャットはいいとこのお嬢さんだったことは間違いないのだが、セイターと所帯を持ち、今やキャットの中にあるのは母親としての責任の自覚…というのともちょっと違う感じだし、息子への執着とか、自由への憧れみたいなこととも違うというか、あるとしてもそれはセイターの支配・束縛への反発から発しているもののようにも思え、彼女自身の信条とか主義( TENET )としては、セイターのアンチというか不支持者くらいのものかもしれない。

アンチといえば、当たり前だが主人公(プロタゴニスト)のアンチは、戯作的にいえば文字どおり敵対者(アンタゴニスト/ ANTAGONIST )であるセイターだ。

そして、彼らふたりや、主人公に与するニールやプリヤの部下のアイブスには強烈な “信条・主義” つまり “TENET” があるのだが、そういう意味では、主人公の “真の敵対者” は実はセイターではなくもっと別のものだったこと、物語の核心ともいえる主人公の “TENET” とは何かということが、最後の最後にわかるようになっている。

てか、書いてるうちにまた時間がきたから切り上げなければならないが、どうもあっちゃこっちゃに飛んでくきらいがあるな、相変わらず。

前回書いた “アルゴリズム” に関連したことまでにまだ行き着かないし、“パラレルワールド” や時間軸のこと、あとそれらといわゆる高次元からの情報とされるものとの関連等々、いろいろ書かなきゃならないが、次回でおさまるのだろうか……

続く

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です